村上春樹とドイツ人

ドイツでは、演劇やダンスの新作が上演されると雑誌、新聞等に作品の評論が載る。こちらの評論は、手加減無し。子供の頃から、大人と議論しながら育つドイツ人は、芸術作品に関しても議論しつくさないと気が済まない様子である。私が出演している演劇の舞台“アフターダーク”は、そんなドイツの環境の中でも群を抜いて、好評、悪評と共に多くのメディアに取り上げられた。上演されているボッフム市立劇場が演劇界で重要視されているのに加え、村上春樹の作品を舞台化したということで大きな注目を集めている。
こちらで本屋さんに立ち寄ると必ず村上春樹の“ねじ巻き鳥のクロニクル”や“海辺のカフカ”等を目にする。“ノルウェーの森”のドイツ語題名が“直子の微笑み”となっていたのは少し気になるが、それはさておき10冊以上のドイツ語訳が出版され売れ行きも上場。私の回りにも、村上ファンは多い。ドイツ人の友人に何故、村上春樹を読むのかと訪ねると、現実と虚構、コミュニケーションの難しさ、孤独な性、希望が静かにしかし強く語られているのに惹かれるという答えが返って来た。
議論好きという点からしても、ドイツ人の思考は、論理的である。意識がクリアで、意識によって己を理解し、他者を受け入れる。これに対して日本人は、短歌や俳句に見られるように言葉で意識をクリアにするのではなく、言葉によって空間を表現し、理解する。考えるのではなく、感じるということがドイツ人にとって新鮮なのだ。村上春樹の本は、まさにドイツ人のそのつぼを無意識に刺激していると思う。今回の舞台で、どこまで日本人としてそのような空間を作り観客と共有できるかが私の課題である。
*京都新聞12月投稿
